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名刺代わりの10冊(ブローガストDay9)

まえおき

最近SNSのほうで、私にあわなかった小説10選みたいなタグが炎上していた。おれはまず『チボー家の人々』と入力エリアに書き込み……そして気づいた。そもそもこの手のタグのなかで一番メジャーな #名刺代わりの10冊 、そういや選んだことなかったな、と。ただこれまでやらなかった理由もある。10冊は多いのだ。Top3なら、自分の好きな本から3つを選択するだけなので楽でいい。しかし10冊になると野心や色気がはいる。世評が高く、かつ読んで面白かったものを趣味のよさアピールのために入れてしまえる余地がある。自分の中では「一番面白かった本を教えて」と同じくらい答えづらい問いだと思って放置していた。

しかし個人サイトをもつと意識が変わってきた。個人サイトは自分の城である。しかし城だけでは国は成り立たない。城に人間や食料を提供する農村が必要である。好きなものをつまびらかにするのって、そういうリソースの確保になるんじゃないか?と思いなおしたのだ。けっしてブローガストのネタが尽きてきたからではない。

というわけでやってみた

とりあえず直感で選んでいく。順位に意味はない。

  1. 保苅実 『ラディカル・オーラル・ヒストリー』 岩波現代文庫
  2. 阿部謹也 『ハーメルンの笛吹き男』 ちくま文庫
  3. 高野秀行 『ワセダ三畳青春記』 集英社文庫
  4. アーダルベルト・シュティフター 『晩夏』 ちくま文庫
  5. 木庭顕 『誰のために法は生まれた』 朝日出版社
  6. ヘンリー・D. ソロー『ウォールデン』 岩波書店ほか多数の出版社から翻訳が出ている。
  7. フィリップ・ニンジャ・モーゼズ、 ブラッドレー・ボンド 『ニンジャスレイヤー』 KADOKAWA/エンターブレイン
  8. 松岡正剛 『フラジャイル』 中公文庫
  9. J・R・R・トールキン 『指輪物語』 評論社
  10. アーダルベルト・シュティフター 『石さまざま』 松籟社のシュティフター作品集に収録。その他岩波文庫にもあるが完訳ではない(はず)。

小説4冊、エッセイ2冊、人文書4冊という結果となった。正直自分のことを小説嫌いだと認識していたので、この結果は意外である。古典がまったくないのも気になる。『暴政』の書評で、インテリぶって大衆に説教している人間の選書か?これが……

まぁ細かいことはいいだろう。一言選評でも書いていくか。

ラディカル・オーラル・ヒストリー

「ケネディ大統領がカントリーにやってきて、グリンジの長老とあった」。これはまぎれもなく史実である。たとえそれが現実でなかったとしても。論文がどうとか実証主義がどうとか、そんな細々したことと無関係なところに、歴史はあるんだよな。おれも歴史実践したい。学士号しかないけど、それでも歴史がしたいんだ。

ハーメルンの笛吹き男

歴史といえば軍師と将軍だったおれに、「百姓にも歴史はあるんやで」と教えてくれた本。「ハーメルンの笛吹き男」伝承のもととなった史実はなにか?著者は複数の史料をつきあわせて、丹念に仮説を検証していく。歴史学とはこうやるのだと、背中で語っているようだ。

ワセダ三畳青春記

中学生くらいのときに買って、何度読み返したかわからない。大学時代、貧乏旅行をできたのはこの本が背中を押してくれたから。留年したのもこの本が背中を押してくれたからである。

晩夏』、『石さまざま

何ページもつづく風景描写、起伏の少ないストーリーライン、基本的に善男善女しか出てこないなど、エンターテインメント性をどこまでも切り捨てている小説なので人を選ぶ。しかしその分、遠赤外線のようにゆっくり染み入る感動がある。ほんとうに人の心を動かすものは、ドラマチックな現象ではなく、おだやかな日常であるというシュティフターの主張におれは説得された。

誰のために法は生まれた

法律はなんのためにあるのか。それはおいつめられた個人を保護するため、個人をおいつめる組織を解体するためであると著者はいう。固く冷たいイメージのある法律が、血の通ったものになった。なお、著者の他の本はそこまですすめない。めちゃくちゃ読みづらいので。『ポスト戦後日本の知的状況』になると、他の学者に毒をはく闇の木庭顕が見られるので一周回っておすすめかもしれない。

ウォールデン

最初に読んだときは面食らった。「人里離れた森でスローライフを満喫しましょう」というまったりした本だと思っていたからだ。ソローの世間に対する目線はきびしく、前半部分はまちの悪口をいっているだけのように思える。しかし、慣れてくる(?)と自然への探究心や物質主義からの独立のような興味深い論点がみえてくる。

ニンジャスレイヤー

やっぱりこれは入れないと駄目だよなぁ。2部連載の頭くらいからずっと追いかけている大河シリーズである。基本的にトンチキ語録の話題が先行しがちだが、脇役キャラにも歴史がある(あるいは、あるとおもわせる)世界観構築の巧みさや、部あるいはエピソードごとに描写の粒度をきりかえる細やかな演出がボンモーのすごいところだとおもう。

フラジャイル

松岡正剛というひとは、多くのことを知っているようにみせかけているが、間違っていることもおおい。ようは山師である。しかし好きなものは好きなのでしょうがない。セイゴオを目指したって、劣化したchatGPTがせいぜいかもしれない。

指輪物語

ファンタジーの王道。それと同じくらい、紀行文学の大作だと思う。映画との合わせ技で一本?だというのも否定しがたい。

入れなかったもの

ベイトソンの『精神と自然』、『精神の生態学へ

見栄で入れようとしたが、恥ずかしくなってやめた。そもそも内容を理解できていないので、読んだ意味があるのかといわれると返す言葉もない。でもなんか面白い。

高山宏 『近代文化史入門』、山口昌男 『本の神話学』、澁澤龍彦 『毒薬の手帖

松岡正剛とキャラがかぶるという理由で選外。この手のひとたちを、ページの3分の1を固有名詞でうめるペダンティックな知の輸入業者だとして嫌うむきもおおい。ランキングに入れると「わかってない人」と思われることもある。見栄を張りたい人は注意してほしい。

ジョン・ウィリアムズ 『ストーナー』、 司馬遼太郎 『国盗り物語

好きなのは好きだが、なんか最近は倫理的にどうかと思ってきた。前者は不倫、後者は性暴力がめだつ。昔は創作のキャラクターの倫理がどうこういう人間を軽蔑しきっていたが、今自分がそんな人間になりはてている。

おわりに

あらためて文章にしてみると、面白さとかより自分のなかでの位置づけをベースに選んだんだなということがわかるなぁ。
年を取るにつれて、こうはなりたくないなと思っていた人間に近づいていってる。これは悲しむべきことなのか、それとも力が抜けてきたと捉えるべきなのか。

関連ノート

脚注

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    あさだあめ

    あさだあめ

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