2025年のおすすめ本
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教科書には載らない、切実な「生きた跡」を探す興奮。関西の大衆食堂と隠れキリシタンの歴史を深掘りし、ローカルな視点から時代のうねりを鮮やかに描き出す、注目の歴史書2冊を紹介します。 (89文字)
これはびっくら本 Advent Calendar 2025 - Adventarの20日目の記事です。
びっくら本2025
よくきたな。おれはあさだあめ。毎日膨大な数の文章を読み、ごくわずかなテキストを書いている。今年は100冊ちょっと読んだはずだが、なかでも紹介したいと思ったのはこの2冊だ。じんぶん大賞的な売れ筋を紹介するのは気恥ずかしいので、おそらくそれほど売れていない(失礼!)こういう本について書くしかなくなる。
関西大衆食堂の社会史
おはぎやうどん、丼ものが主力メニューの大衆食堂。関西在住なら一度は見たことがあるだろう。著者はこれらを「餅系食堂」と呼び、その成立と発展、そして社会における役割の変遷を追った。 特筆すべきは、関西最大のチェーンである「力餅食堂」の歴史だ。創設者の池口力造は兵庫県・但馬地方の出身である。ゆえに力餅食堂は、但馬の人間が都会(京都や大阪)へ出た際の有力な働き口となり、住み込み修業の場として同郷人を支えるセーフティネットの役割も果たしていた。
関西の隠れキリシタン発見
戦国時代、キリシタン大名・高山右近が治めた北摂(現在の大阪府北部)。禁教令ののち、彼らの信仰は完全に途絶えたと思われていた。それが大正9年、茨木市・千提寺での調査によって「隠れキリシタンの遺物」が発見され、歴史が塗り替えられた……というのがこれまでの定説だ。 本書は、新発見の資料に基づきその「公式見解」に一石を投じる。大正の発見に先立ち、明治時代にフランスの宣教師マラン・プレシがすでに彼らの存在を「発見」していた事実を掘り起こしていく。
人に、地域に歴史あり
この2冊に共通する魅力は、徹底して「ローカルな出来事」と「名もなき人物」に光を当てている点だ。 デヴィッド・グレーバーがいう「ポップ歴史書」の、人類史の謎に挑む壮大さも確かに面白い。しかし、自分の暮らす街の片隅に、教科書には載らない切実な生きた跡を見つけるのは、それ以上に興奮する体験だ。全く無名の、しかしその時代を必死に生きた人物の足跡を教えてくれる本は、それだけで手に取る価値があるとおもう。 余談だが、こうした視点はエマニュエル・ル・ロワ・ラデュリの『モンタイユー』に代表される社会史の醍醐味でもある。
ミクロとマクロの往還
もちろん、単なるマニアックな知識の羅列に留まらないのがこれらの本の凄みだ。 たとえば『関西大衆食堂の社会史』では、日本全体の高度経済成長や産業構造の変化というマクロな潮流が、但馬の農村から都市への人口流出、そして力餅食堂という個別の共同体の衰退というミクロな出来事といかに密接に関わっていたかが鮮やかに描き出される。
『関西の隠れキリシタン発見』においても同様だ。ひとつの集落で守られてきた信仰の遺品(ミクロ)の背景には、バチカンの宣教戦略や明治政府の宗教政策(マクロ)が複雑に絡み合っている。 身近な「うどん屋」や「山あいの集落」を深く掘り下げることで、結果として大きな時代のうねりが見えてくる。
