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〈個〉の誕生

書誌情報

title: 〈個〉の誕生 (コノタンジョウ)
author: 坂口ふみ
publisher: 岩波書店
publish: 2023-01-16

紹介

イエスの隣人愛の思想がその死後ギリシア・ローマの哲学的言語によって教義化されていく過程で、新たな存在論が作り出された。個の個的存在性(かけがえのなさ)を指し示す概念を中心とするこの存在論が古代末期から中世初期に東地中海世界の激動のうちで形成された次第を、哲学・宗教・歴史を横断し伸びやかな筆致で描き出す。(解説=山本芳久)

目次

はじめに

序 章 カテゴリー
  カテゴリー
  隣 人
  迂回(一)――隣人からキリストへ
  迂回(二)――キリストからキリスト教思想へ

第一章 いくつかの日付
 1 教義論争の意味
 2 いくつかの日付
 3 コンスタンチヌスとビザンツ的構造
 4 ニカイア公会議
 5 パルメニデスの裔
  ⑴ 論争のきっかけ
  ⑵ パルメニデスの裔
 6 旧約伝統のヘラス化
 7 パルメニデスに背くもの
  ⑴ アリウスとアタナシウス
  ⑵ ホモウシオス――何が同一なのか
  ⑶ いくつかの解答
   解答(一)――ネオプラトニズム
   解答(二)――ウシアとヒュポスタシスの区別
   解答(三)――私の心の省察から神へ
 8 第一コンスタンチノポリス公会議

第二章 ヒュポスタシスとペルソナ
 1 東方の息吹き
 2 迷子になった概念
  ⑴ ヒュポスタシス
  ⑵ ピュシス
 3 翻訳による変貌
  ⑴ 顔――ペルソナとプロソーポン
  ⑵ ペルソナ
 4 概念のポリフォニー

第三章 カルケドン公会議――ヨーロッパ思想の大いなる転換点
 1 前 史
  ⑴ 帝国の政治
  ⑵ 教会政治と教理
   オリゲネスとアポリナリスにおける二本性と一本性
   ネストリウスとキュリルスにおける二本性と一本性
   エフェソスの公会議
   合同信条
   盗賊会議
 2 カルケドン公会議
  ⑴ 第一・第二会議
  ⑵ レオの書簡――西方世界のメッセージ
  ⑶ カルケドン信経の成立――第三会議から第五会議まで
  ⑷ カルケドン信経の問題点
 3 カルケドン以後
  ⑴ キュリルス左派の抵抗
  ⑵ 「統一令(ヘノティコン)」と東西教会の分裂
  ⑶ 単性説の理論家セヴェルス
 4 ユスチニアヌスの路線
  ⑴ カルケドン派の勝利と変貌――ユスチヌスとユスチニアヌスの政治
  ⑵ 第二コンスタンチノポリス公会議

第四章 キリスト教的な存在概念の成熟
 1 ネオ・カルケドニズム
 2 ヒュポスタシス=ペルソナ
 3 混合のメタファー
 4 アリストテレス以降の混合論
 5 キリスト教の混合論
 6 新しい存在論の完成形――二人のレオンチウス
  ⑴ 両レオンチウスに共通の理論的意図
  ⑵ ビザンツのレオンチウス
  ⑶ 「オリゲニスト」
  ⑷ ビザンツのレオンチウスのキリスト=ヒュポスタシス論
  ⑸ エルサレムのレオンチウスのキリスト=ヒュポスタシス論

第五章 個の概念・個の思想
 1 残されたものと成就されたものと
 2 ビザンツ的インパクト

おわりに
 注
 あとがき
 解説かけがえのない「個」への導きの書 ……… 山本芳久

読書メモ

  • 325 ニカイア公会議
  • 381 コンスタンチノポリス公会議
  • 451 カルケドン公会議
  • 556 第二コンスタンチノポリス公会議
  • 公会議によるキリスト教の教義の形成こそが、「個としての存在」を生み出す契機となった?
  • ローマ末期、帝国末期。なんか有名な本があったはずだが……
    • ピーター・ブラウンの古代末期の世界だ。あとで論点・西洋史学も確認したほうがよさそうだ。
  • なぜカルケドン公会議が画期となったのか?ここにこの本の勘所があるとみた。  #asklist
  • ウシア=実体
  • ホモウシオス グノーシス用語でもあり、問題がある
  • 曖昧な表現による虹色の解釈は長くはもたなかった。
  • 学問と文化を否定する。宗教でありながら、学問と文化を重視する古代のローマに生まれてしまったこと。これが悲劇。
  • イエス・キリストとは何者なのか。これが教義論争のメインテーマ。

感想

カルケドン公会議を扱った章を読んでます。キュリルスと後に異端とされるネストリウスとの論争の様子が描かれています。作者曰く、どちらも攻撃的な性格なので、ここまで話が拗れたのではないか、とのこと。さてその論争ですが、専門的にはキリスト論とよばれる、イエス・キリストとは何なのか?神なのか?人なのか?を問う分野で行われました。ネストリウス派は、イエス・キリストは神のキリストと人のキリストの2つの本性をもち、聖母マリアは人のキリストの母なので、聖母と呼ぶのはふさわしくないと述べたとか。

専門用語も多く、なかなか議論についていけません。〈個〉の誕生を引き続き読み進めています。ネストリウス派を放逐したものの、今度は東方に多い単性論派がカルケドン信条から離脱し、東西教会の分裂が深刻になってきました。この現象に対して著者は、用語にこだわり、哲学的な議論を求めるギリシャ的な心性と、その手のごちゃごちゃした話を嫌う実際的なローマの心性の対立があると考えています。写真は現在にも残る非カルケドン派であるシリア正教の教会です。昔の旅行中に撮ってたみたいです。

関連ノート

リンク

脚注

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    あさだあめ

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